戦前の岡田屋は江戸時代から続く呉服屋でしたが、私の父は株式会社にして、近代的な経営をしておりました。その父は早く亡くなりましたが、戦争が始まって、私は大学在学中に軍隊にとられました。終戦となって、郷里に戻りました。社長に就任して、姉と一緒に商売を再開しました。その頃、小さな40坪の店舗をつくって、そこで初めて「大売出し」のチラシを出しました。「焦土に開く」。お客さまは涙を流して、「やっと平和がきた」と、そのチラシを握りしめて店にいらっしゃった。私たちは感激しました。 私はなんとか、日本の商売を近代的な小売業に変えるべく、ずっと努力をしてきました。しかし、日本には江戸時代から「士農工商」というしきたりがありました。小売業は産業の中に入っていなかったのです。「士」は官僚に変わりました。「農」は米…